9月8日英国エリザベスII女王陛下がスコットランドのバルモラル宮殿にて崩御なさいました。バルモラル城はアバディーンの西約64kmに位置し、夏に利用されていた宮殿です。
9月19日ロンドンのウェストミンスター寺院にて壮大な葬儀が執り行われました。その間女王の棺は所縁のある様々な場所へ国民と最後のお別れの為に移動されました。棺にはイギリスらしい素敵なリースが置いてありました。
9月11日 バルモラル城からエディンバラのホリールード・ハウス宮殿へ移動
9月12日 ホリールード・ハウス宮殿からセント・ジャイルズ大聖堂に移動・安置
9月13日 午後5時、大聖堂よりロンドンのバッキンガム宮殿へ空路にて移動
9月14日 午後2時22分 バッキンガム宮殿よりウェストミンスター宮殿へ移動 その後4日間ホールで公開安置
9月19日 ロンドンのウェストミンスター寺院にて葬儀 同日夜ウィンザー城内のセント・ジョージ礼拝堂に埋葬
女王陛下の棺はスコットランドのバルモラル城を出発し、エディンバラの所縁のある場所を経てロンドンのウェストミンスター宮殿まで移動されました。その期間はすべて白のリースが棺に置かれていました。花はすべてバルモラル城並びにウィンザー城の庭の花であったそうです。9月11日のリースは白のダリア、フロックス、白のヘザー、スィートピーにシルバーグレーの松の枝。後日のリースには白のバラ、白のスプレーバラ、白のダリア、ボタンギク、スプレーエリンジウム、へーべとその葉、ドライのヘザー、またシルバーグレーのパインモミとピットスポルムの種類の一つのトベラなどのバルモラルの庭から、そしてロンドンのウィンザー城の庭からはラヴェンダーとローズマリーが集められたとの事です(この2つはピンクのリースに使用)。葬儀の当日は華やかなピンク系のリースとなっていました。リースの形が分からないくらい大きな物ででしたが、イギリスらしくナチュラルで優しく、大変素晴らしいリースであると感じました。
BBCの記事によりますと、ピンクの花のアレンジメントも国王チャールズIII世のご希望により、女王が過ごされたバッキンガム宮殿、クラレンスハウスならびにグロスターシャーにあるハイグローブハウスの庭から集めた花々だそうです。チャールズ国王のメッセージカードも添えられ、とても素敵なお手向けであったと思います。イギリスは花言葉を用いてのメッセージのやり取りが盛んな国でした。今回も家族のクィーンへの想いが花に託されていました。
<花によるメッセージの伝達 - フロリオグラフィー>
使われていた花のローズマリーには「追憶/remembrance」という花言葉があります。白のバラは「純潔」と「崇拝の象徴」であり、マートル(ギンバイカ)は「幸せな結婚として古代の象徴/ancient symbol of a happy marriage」、英国のロイヤルファミリーの結婚にはかならず庭からマートルが摘まれる習慣*があります。マートルはもちろんエリザベス女王陛下の結婚式のブーケにも用いられました。そしてこのリースに使われたマートルは、なんと1947年の女王陛下の結婚式のブーケに使われたマートルの枝を庭に挿し木をして育てた樹の物であったとの事です。イングリッシュ・オークは「強い絆/strength」の意味がありまさに女王陛下の生涯にわたる勤勉なるご公務、そして絶え間ない国民への愛情の表われであります。スウィートピーには「別れ/farewell」という意味があります。これは昨年王配のフィリップ殿下がお亡くなりになった際、女王陛下自らが庭からお選びになった花だったそうです。
*マートルの習慣:ヴィクトリア女王が1840年2月の結婚式で、王配となるアルバート公の母君よりもらい受けたマートルの枝をウエディングブーケに使ったとの事。その後枝は英国南部のワイト島にあるオズボーンハウスの庭へ植樹され、王家代々のウエディングのブーケに入れられる習慣につながりました。またビクトリア女王は当時の重々しい色ドレスの習慣を退け、白のウエディングドレスをお召しになり以後一般に白のドレスが広まりました。髪飾りにはオレンジの花飾りを付け、こちらも大流行したそうです。
<環境への対応>
もう一つ特筆したいのは、チャールズ国王のご希望によりリースは環境問題に対応し英国産のコケとオークの小枝でベースが組まれており、そこに花が配されていたとの事です。わずかにシルバーのトレーが下に敷いてあるのが見えましたのでフォームが違うのかなと思った次第です。フラワーアレンジメント発祥の地であるイギリス、クラシックな方法もきちんと受け継がれている事はちょっと嬉しい発見でした。
<植物に関して・イギリスの習慣>
イギリスにおいては、ローズマリーは人生いろいろな場面で使われる植物です。花言葉は「追憶や記憶」。ハーブの見識者の目からは記憶力に作用する薬草としての見解があります。「愛」や「忠誠や忠義」などの意味も持ち合わせ結婚式にも用いられるポピュラーな植物です。小さく可愛いサムシングブルーの青い花も枝に付きます。また人生を終える時にも沢山のローズマリーの枝を棺に入れる習慣がある(あった)との事です。葬儀の時のリースは人生そのものを花で表現します。誕生したばかりの小さな蕾、少し開いた花、大きく開花した大輪の花、実物、そして枯れた枝や花すべてを使いその人の人生に重ねます。シルバーグレーのコニファー類は「永遠」を表し、必ずリースに用いられます。ウェストミンスターのペデスタルに用いられた柳の枝は「悲しみと服喪」を表し、白のジャスミンは「神からの贈り物」、ヘデラ(アイビー)は「永遠と忠実」という意味を含みます。
余談ですが、月曜日に朝にはかならず庭の花がクィーンの公務の机に届けられたそうです。プリムローズやスズラン、そしてスィートピーがお気に入りだったそうです。スィートピーは女王陛下の誕生日のお花でもありました。大げさではなくさりげなく咲くお花をお好みになられたご様子です。まるでクィーンのお人柄を表していたとガーデナーAlan Titchmarsh氏のお話です。
<葬儀当日棺のアレンジメントのお花> 写真からわかる範囲でピックアップしました
バラ ピンク 数種類
ヘリクリサム
ダリア ディープパープル
スプレーバラ イエロー
ローズヒップのような実物 オレンジ
スカビオサ デイープパープル
マートル
インパチェンス
秋色アジサイ
スナップドラゴン オレンジ
セダム くすんだピンク
ローズマリー ブルーの花付き
センテッドゼラニウム/ペラルゴニウム
スィートピー
メッセージカードには "In loving and devoted memory, Charles R." 「愛と献身の記憶に」と記されていました。
<ウエストミンスターのペデスタル 祭場を飾る2つの大きなアレンジメント>
教会や寺院での催事がある時はかならず壇上横もしくはホールの目立つ所にペデスタルと呼ばれる大きなアレンジメントを置きます。葬儀当日のウエストミンスターのお花はすべて白。ユリ'Watch up'、バラ 'Avalanche'、ブバリア、グラジオラス、アルストロメリア、ダリア'Caro'、ダリア'Maarten Zwaan'、トルコキキョウ'Rosita'、葉はイングリッシュオーク、曲がった白樺/カバの枝、マートルの小枝、スズラン、中心部にはフォルミアム・テナックス(ニューサイラン/マオラン/ニュージーランドアサ)、ユーカリ'Popules Bes'、ルスカスなどが使われている豪華な花飾りでした。こちらで使われているマートルの小枝もやはり王妃が結婚した時の樹の枝だそうです。柳やジャスミン、ヘデラなども使われていたそうですが、写真からは確認できませんでした。
1926-2022 Her Majesty Queen Elizabeth II
英国領主の君主として70年の任務は本当に素晴らしい事です。世界の人々を魅了し続け様々な活動を通してイギリス国内はもとより世界へも多く貢献なされた事に多々なる感謝をいたします。
どうぞ安らかにお休み下さい。心よりご冥福をお祈りいたします。
References
https://www.theguardian.com/uk-news/live/2022/sep/19/queen-elizabeth-ii-state-funeral-westminster-abbey-updates?filterKeyEvents=false
https://twitter.com/RoyalFamily/status/1568902529957642240?ref_src=twsrc%5Etfw%7Ctwcamp%5Etweetembed%7Ctwterm%5E1568902529957642240%7Ctwgr%5Eeb2d4b99d66bcd4c76ac06e47c94e19e1b23cf0c%7Ctwcon%5Es1_&ref_url=https%3A%2F%2Fwww.womanandhome.com%2Flife%2Froyal-news%2Fthe-significance-of-queen-elizabeth-iis-floral-wreath-and-its-sweet-link-to-prince-philip%2F
https://www.bbc.com/news/uk-62954578
https://www.elledecor.com/celebrity-style/a41094629/queen-elizabeth-funeral-flowers/
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-62847201
https://www.townandcountrymag.com/society/tradition/a41277503/flowers-queen-elizabeths-coffin-meaning/
https://www.buzzfeednews.com/article/kelseyweekman/queen-elizabeth-ii-coffin-note-flowers-meaning
https://www.harpersbazaar.com/jp/celebrity/celebrity-news/a41236665/flowers-queen-elizabeth-coffin-funeral-meaning-220916-lift1/
https://www.floristrytradeclub.co.uk/post/hm-king-charles-iii-requests-oh-so-meaningful-and-sustainable-flowers-for-his-mother-the-queen
過去のブログより
英国ロイヤルウエディング ウェディングブーケと花飾り
"Saying it with flowers - 花に託して" シェイクスピアの誘惑と愛 花言葉
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